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2005年07月06日

貧困終結でG8に行動求める アフリカ連合首脳会議

引用 徳島新聞

 【シルト(リビア北部)5日共同】アフリカ連合首脳会議は5日、主要国(G8)首脳会議(グレンイーグルズ・サミット)参加国に対し、アフリカの貧困を終わらせるため早急な行動をとるよう求める宣言を採択した。

投稿者 sustena : 17:42 | コメント (0)

2005年06月30日

国内のタイ人エイズ患者、5割以上が死亡

引用 日経新聞

 日本国内でエイズを発症したタイ人の5割以上が死亡していることが29日、在日外国人のエイズ患者の支援活動をしている東京の特定非営利活動法人(NPO法人)などの調査でわかった。無保険のため高い治療費が払えず、医療機関での受診が遅れるケースが相次いでいるという。

 調査した「国際保健協力市民の会」副代表の沢田貴志医師は「タイ人に限らず、日本に滞在する外国人のエイズ患者に対する治療態勢の遅れが目立つ」と訴えている。

 調査は在日タイ大使館の協力で実施。2004年度の下半期に、大使館が病院などから保護依頼を受けたタイ人のエイズ患者13人のうち7人が約2週間以内に死亡した。沢田医師は「エイズは治療薬の開発で死なない病気になりつつあるなか、あまりにも高い死亡率」と指摘する。

 また大半が無保険で、外国人未払い医療費の補てん制度のある自治体では患者4人のうち死亡者は1人なのに対し、同制度のない自治体では患者9人のうち死亡者は6人だった。 (16:00)

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2005年06月23日

中国:「低農薬・有機食品産業の発展は貧困脱却に大きな意義」

引用

中国緑色食品発展センターの王建平・副主任は先ごろ、低農薬食品、有機食品産業の発展は農民の所得増加、貧困脱却に大きな意義を持つとの認識を示した。1998年から2002年にかけて全国の低農薬食品産業は年間29%のペースで成長、2002年から2004年かけては年間56%以上の成長率を記録している。

2004年末現在、全国の低農薬食品企業数は2836社(6496品目)、年間売上は860億元に上った。2001年から2004年かけて全国の低農薬食品輸出額は年間50%以上増加、輸出率は12%、有機食品輸出率は51.3%を記録している。近年、貧困地区の低農薬食品、有機食品産業は急成長の勢いを見せている。2004年末現在、国家貧困扶助重点県592県のうち193県が低農薬食品や有機食品の認証制度を導入しており、低農薬食品企業、有機食品企業数は計296社(582品目)に上る。一部の貧困地区では低農薬食品、有機食品原料拠点を建設し地元の資源開発を促している。【経済日報 2005年06月22日】

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2005年06月22日

ハンガー・バンケット:飢えと貧困を疑似体験

引用

ハンガー・バンケット:飢えと貧困を疑似体験−−26日、県民文化会館 /鳥取

 ◇世界の状況、ぜひ知って

 世界の飢えと貧困を疑似体験するイベント「ハンガー・バンケット(飢餓の宴)」が、26日午前11時〜午後2時、県民文化会館(鳥取市尚徳町)で開かれる。国際交流団体「タイム」などの主催で、県内開催は10年ぶり。主催者は「ぜひ世界の状況を身をもって知ってほしい」と話している。

 飢餓の宴は、出席者を▽1日3回満腹に食べられる「第一世界」(15%)▽1回だけご飯と汁を食べられる「第二世界」(30%)▽1度の食事にもありつけるか分からない「第三世界」(55%)−−に分けてシミュレーションする。飢餓解消のため、人々が自分にできることを考え、行動に移すことを奨励しようと、アメリカのNGO「オックスフォード飢きん救済機構」が考案した。

 世界の約63億人のうち約20億人が貧困死にさらされている状況を実感してもらおうと、当日は参加者に第一〜三世界の食事のどれかが振る舞われる。国際飢餓対策機構日本協会の職員による講演「私の見たアフリカの子供たち」や鳥取大学に通うアフリカや中南米の留学生の話も聞くことができる。チャリティー募金もあり、実行委は「お菓子やコーヒー代と思って協力を」と呼び掛けている。参加料は大人1000円、学生800円。問い合わせは実行委(0857・28・5385)。【松本杏】
毎日新聞 2005年6月22日

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2005年06月17日

農村自立へ新複合支援政府、アフリカ開発で

引用- 河北新報

農村自立へ新複合支援 政府、アフリカ開発で

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 政府は16日、7月の主要国首脳会議(グレンイーグルズ・サミット)で主要議題となるアフリカ支援について、貧困地帯の農村の自立を後押しする日本独自の複合的な支援策「アフリカン・ビレッジ・イニシアチブ(AVI)」を各国で展開する方針を固めた。
 インフラ整備を核に、現地のニーズに応じて教育、保健・衛生、住民自治、農業振興などへの支援を組み合わせる方式。政府は、4月のアジア・アフリカ会議(バンドン会議)50周年記念首脳会議で、アフリカ向け政府開発援助(ODA)を3年間で倍増する方針を表明しており、内容面でも「対症療法ではない、持続可能な開発支援」(外務省幹部)により、欧米と一線を画した「日本の協力」をアピールする考えだ。

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2005年06月14日

債務免除が貧困を撲滅できず

ロンドンで開かれていた主要8カ国財務相会合が11日最貧国18カ国の債務400億ドルを全額免除することで合意しました。これは史上最大規模の債務免除であるため、関連諸国から歓迎されているものの、国際世論は「一部貧困国の債務免除は世界の貧困撲滅にとって不十分であり、先進国は開発援助を拡大し、農業補助金を廃止して貧困国に向けて市場を開放すべきである」としています。

債務が免除された18カ国の大半はサハラ砂漠南部にあり、主要八カ国は返済用の資金をこれら貧困国の教育、医療保健、インフラ整備に投入することに同意しています。

 この18カ国は長年にわたる自然災害のほか、疫病、多くの社会問題などで国力が衰え、400億ドルの債務免除は平均して1国当たりに22億ドルぐらいで貧困の撲滅は不可能であると見られています。

 一部国際支援機関は「返済能力の無い最貧国にとって債務免除は心理的負担の軽減にとどまっている。先進国は債務免除と共に開発援助を拡大し、自国の農業補助金を廃止し、貧困国向けの市場開放を実施すべきである」としています。

 開発援助の拡大でイギリスは援助額を倍増し、今後10年間で1000億ドルに拡大して貧困国の貧困撲滅をほぼ実現できると提案しました。

 ブレア首相は今月上旬アメリカのブッシュ大統領と会談した後、ブッシュ大統領はアフリカに対する6億7400万ドルの追加支援を発表しました。

 アフリカ諸国にとって先進国の農業補助金廃止と市場開放は経済自立への支援となっています。ナイジェリアのオバサンジョ大統領は「アフリカは資金支援より、先進国の農業補助金廃止と市場開放を選択する」と明らかにしました。

 イギリスは今年当初、貿易障壁撤廃、市場開放などアフリカ経済を自立させる措置を提案しましたが、欧州連合の共通農業政策で農産物の輸出に高額の補助金を支出しています。

 関係者は「ここ数年経済のグローバル化は発展途上国、特に発展途上の貧困国を排斥し、先進国と貧困国の生活レベルには大きな格差が出ている」と指摘しています。

 こうした大きな格差は世界の安定と経済の発展に計り知れない損失をもたらすことになると、一部の先進国は認識しています。

 経済の自立と貧困脱出を支援することは貧困国だけでなく、先進国の発展にもプラスであると見られています。

 国際社会は開発援助の拡大と市場開放でより多くの実際行動をとり、国連のミレニアム開発目標の達成を実現させるよう先進国に期待しています。

中国国際放送局ー
http://jp.chinabroadcast.cn/151/2005/06/13/1@43114.htm

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アフリカ支援 借金棒引きで誰が得をする

引用ー毎日新聞社説

ンドンで開かれた主要国(G8)財務相会議で、アフリカなどの貧困国18カ国が世界銀行や国際通貨基金(IMF)など国際機関に負っている債務を完全免除することが決まった。汚職追放などの条件を満たせば、債務免除は最大20カ国拡大する。

免除分は先進国が肩代わりするが、実際の負担割合をどうするのかは決まっておらず、7月のG8首脳会議(グレンイーグルズ・サミット)に向けて調整が続くことになる。

 債務の完全免除はサミット議長国の英国が提案していた。日本は一律に帳消しすれば、民間資金も滞り経済の自立につながらないと主張していた。しかし、米国が英国に同調したことから、独仏とともに受け入れることになった。

 英政府によると免除額は18カ国で総額400億ドル(約4兆3000億円)にのぼるといい、仮に国際金融機関への出資比率に応じて肩代わりすると、日本の負担は40億ドル(国民1人当たり約3400円)を超える計算になる。

 世界の貧困撲滅をめざすミレニアム開発目標が国連総会で採択されてから5年が経過し、9月には貧困問題に関する特別首脳会議が国連で開かれる。しかし、アジアでは改善が進む一方で、アフリカは一向に進展がみられない。

 英国が議長国としてアフリカ支援をサミットの主要課題としたのは、こうした背景があるが、地理的な近さと旧植民地国との歴史的な関係から、欧州ではアフリカ支援が国民にアピールしやすいという事情も働いている。

 一方、日本が重点的に支援してきたアジアでは、援助の受け入れ国から卒業する国が相次いでおり、円借款も返済が増えている。日本の援助の成果でもあるわけだが、政府開発援助(ODA)のあり方を見直す時期にきていることも確かだ。

 その中で、貧困が改善されないアフリカへ援助の比重が拡大することは当然の成り行きなのかもしれない。しかし、援助も外交の一環だ。対アフリカ支援の拡大と日本の国益との関係について、政府はもっと明らかにする必要がある。国連安保理の常任理事国になるためにはアフリカ諸国の支持が必要という程度の理由では、国民の理解は得られないだろう。

 また、債務免除の金額を積み上げれば、支援の実効性があがるというものではないことも踏まえるべきことだ。こうした最貧国では、流入する資金より資本逃避の額の方が大きいケースが多い。資本逃避の構造を放置したまま、債務免除や資金援助を行っても、支援は根付かない。

 日本は、「アフリカ支援でもアジアでの経験を生かすべきだ」と主張している。低利の円借款と技術支援、中小企業育成などを組み合わせた日本の援助は、アジア諸国の経済の自立に貢献してきた。

 開発援助の目的は、産業を育て経済の自立を促すことだ。本当に必要なのは、義援や恩恵ではなく、自立に向けたプログラムなど具体策だ。

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なぜ貧困解消が世界にとって重要か?-南アジアの事例から(I)

引用ー独立行政法人 経済産業研究所

今日、貧困削減は各国首脳が全員異議なく賛同できる数少ない課題のひとつのようだ。2000年9月、国際連合加盟国191カ国は「国連ミレニアム宣言(UN Millennium Declaration)」という国連総会決議を採択した。本決議を以って、国連加盟各国は一連の社会経済開発目標とその達成期限を設定し、これを達成することを誓った。一般的に「ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals)」と称されるこのリストの一番上に掲げられているのは、「2015年までに1日1ドル未満で生活する人口の割合を半減するには…」という文言で始まる具体的な貧困削減目標である。

日本はこの国際決議の調印国であり、相当規模の政府開発援助(ODA)の供与国でもある。しかし、一般の日本国民のほとんどは、ミレニアム開発目標の存在すら知らないようである。さらに、国内経済が低迷するなか、ODAに対する国民の支持すらも弱まっている。ODAに対する個人の見解がいかなるものであれ、なぜ我々が世界の他の国々における貧困について心配しなければならないのか、日本人全体の問題として戦略的に理解すべきときが来ている。


■意識の外の「アジア」

開発問題に関する世界レベルの政策協議や貧困撲滅キャンペーンでは、もっぱらサブサハラアフリカがその中心課題となっているが、これは、欧米各国の政治的・経済的利害に基づく欧米中心主義の表われである。その一方であまりにも見落とされ過ぎているのが、世界の貧困のほとんどはアジア、つまり、日本のすぐ側にあるという事実である。

将来、たとえば約50年後の世界を考えるとき、アジアが世界経済の重心になるであろうことは衆目の一致するところである。この将来像に示される「アジア」は、北半球から南半球まで、北は中国、日本、間に東南アジア、南アジア諸国をはさんで、南は「ダウンアンダー」と称されるオーストラリア、ニュージーランドまで、細長く伸びた一切れのリンゴのようなかたちをしている。このアジアの経済の原動力となるのは、世界で最も人口の多い2カ国、50年先には第1位となっているであろうインドと第2位の中国である。

この将来像は、日本の一般国民、政治家、経済界首脳が思い描くアジアとは異なる。南アジアに対する日本の関心は特に低く、ほとんどその視野に入っていない。しかし、世界の貧困が集中しているのは、他ならぬその南アジアなのである。世界の貧困人口の約半数が南アジアに生まれ育ち、5億人もの人々が1日1ドル未満で生活している。

もちろん、アフリカの貧困層の窮状について過小評価されることがあってはならない。しかし、世界の貧困問題に関する議題がアフリカに集中しているという現在の偏った状況は是正されるべきである。日本はアジアの貧困についてもっと真剣に考え始めなければならない。特に南アジアについてそうすべきである。


■南アジアについて

南アジアは、インダス・ガンジス川流域を中心に古代文明が栄えた地として、そして、仏教をはじめとする世界の主要宗教が発祥した地として知られている。今日、南アジアには15億人が暮らし、世界で最も急成長している国々のいくつかがここに存在する。

「南アジア」とは、通常、南アジア地域協力連合(SAARC)を構成する7カ国のことを指す。SAARCは、1985年に設立されてから今日まで、自由貿易協定締結に向けた準備を含むさまざまな地域技術協力に活発に取組んできた。先ごろインド・パキスタン両国関係が改善しつつあるが、このこともまた、SAARCにとってその活動をさらに推進する政治的な追い風となっている。

南アジア諸国のうち、バングラディシュ、インド、パキスタンおよびスリランカの4カ国は、かつて英領インドの一部としてイギリスの統治下にあった。これらの国々はいずれも、イギリスの行政制度、法的理念・慣習、商制度という統治時代の遺産を受け継ぐとともに、民族自決をめざした長年の闘争を経て独立を勝ち取ったという大きなプライドを共有している。残りの3カ国、ブータン、モルディブ、ネパールはいずれも、近代史上、一度も植民地化されたことがない。これらの国々も、それぞれ恵まれた地理的条件に助けられながら、国民とその指導者の勇気と才覚によって外国勢力の攻勢を水際で食い止めたという、先の4カ国に負けないくらい強いプライドを持っている。

このように、南アジアの人々の最も知られざる特徴は、すさまじいほど強烈な自主独立の精神を持っていることである。もう1つの特性は、その多民族性である。シルクロード等、地上および海上の古代交易ルートの経由地であったこの地域では、ヨーロッパから中近東、東アジアまでさまざまな民族が入り混じって暮らしてきたのだ。


■貧困をもたらす根本的な原因は悪い統治である

世界の貧困人口の半数が南アジアに居住しているが、その大部分はこの地域で最も人口の多い3カ国、具体的には、バングラディシュ(2005年の人口1億5000万)、インド(同11億)、パキスタン(同1億6100万)に集中している。しかし、貧困そのものの大きさ故に、貧困問題が日本と日本国民にとって戦略的重要課題となっているわけではない。

南アジアの多くの地域においては、貧困は何世代にもわたる抑圧と同義であり、おそらく他のどの地域に比べてもその傾向が強い(南アジアの国でこうした傾向及び以下に述べる特徴の見られないのは、ブータンとおそらくモルディブの2ヶ国のみである)。ときとして抑圧は、たとえばカースト、人種、宗教に基づく差別がそうであるように、社会的な性格を持つ。こうした社会的抑圧は女性に対して過酷であり、家庭生活や子供の幸せを左右するさまざまな世代間関係に対する影響をもたらしてきた。さらに、地主が君臨する政治構造、あるいは、汚職だらけの役人と不正な選挙によってもたらされる政治的な抑圧もある。

社会的なものであろうと政治的なものであろうと、貧困をもたらす根本的な原因は、あらゆる種類の悪い統治(bad governance)とこれに伴う職権乱用である。貧しい人々もそう考えている。


■悪い統治の実態

悪い統治が具体的な問題として表面化したものとして、特に注目すべきものが2つある。貧しい人々の助けとなる代わりに、権力ある者たちをさらに豊かにするための仕掛けと化した公的保健制度と教育制度である。こうした制度における統治の問題は、南アジアの多くの国々において、貧しい人々の最悪の恐怖と唯一の希望を食い物にし、貧困が「戦略的リスク」となる事態を招いている(「選択」2005年1月号参照)。

男女を問わず貧しい大人は誰しも、何ものにも増して大きな1つの不安を抱えている。病に倒れ、貧しく粗末な生活すら立ち行かなくなるかも知れないという不安である。日々の畑仕事、あるいは、水汲みや薪、飼料を集めるのに費やす時間(1日平均6〜8時間)を考えると、彼らは病に伏している余裕などない(「選択」2005年4月号参照)。貧しい家庭の稼ぎ手にとって、病に倒れることは人間としての基本的尊厳を失うこと、つまり、貧困生活から極貧状態に陥ってしまうことを意味する。

債務不履行による債務労働(現代における奴隷制度)、闇手術による臓器(腎臓、眼球)の売却、売春のための子供の売買、物乞い、犯罪、ときには餓死さえも、彼らにとってはほんの些細な不幸な出来事によって起こりうる紙一重の現実なのである。にもかかわらず、南アジアの多くの国々における公的保健制度は、こうした貧しい人々に救いの手を差し伸べるよりも、官僚や政治家のみならず看護婦や医師までも含む権力者たちをさらに富ませる仕組みになっている例が多い。こうした悪い統治によってもたらされる非道は、たとえば、以下のようなものである。

病院・診療所の入札および建設における不正(リベート、収賄)
医療器具、医療車両、医薬、その他の医療用品の調達における不正(リベート、収賄)
公的医療施設の私的流用(農村部の診療所を穀物倉庫として使用する等)
公的に調達された医薬品の横領及び売却
違法な臓器売却(輸出を含む)
「幽霊医者」(公的医療機関から給与を受け取っているにもかかわらず実際にはその機関で働かず、別の場所で個人開業している医者)
無断欠勤(農村部の医療機関から都市部の医療機関に転任するために政治家に賄賂を贈る医者)
貧しい人々も、裕福な人々と同じ希望や願望を抱いている。貧しい大人たちは誰しも、ある1つの切なる願いのために苦難を耐え忍んでいる。自分たちと同じ苦労をしなくていいように、子供たちに教育を受けさせたいという願いである。

しかし、南アジアの多くの国々では、公教育制度もまた、貧しい人々のたった1つの願いを叶えるより、富める者をさらに富ませる仕組みになっていることが多い(「選択」2005年5月号、6月号参照)。公教育における悪い統治の事例として以下のものが挙げられる。

学校の入札および建設における不正(リベート、収賄)
教科書、学校用家具、学校給食、その他の教育用備品の調達における不正(リベート、収賄)
公立学校施設の私的流用(小学校の校舎を住居または政治活動拠点として使用する等)
教科書印刷・配布における組織的な贈収賄
「幽霊教師」(公立学校の教員として給与を受け取っているにもかかわらず実際には教えていない、主に好条件の年金を受け取る目的で教員資格のない者が教員ポストを買い取る等)
無断欠勤(農村部の学校から都市部の学校に転任するために政治家に賄賂を贈る教師)

■貧困は「戦略的リスク」である

以上、悪い統治がどのような手段で貧しい人々を直撃しているか、その代表事例を紹介した。公的保健制度がきちんと機能し、利用することができたら、基本的な人間の安全保障という大きな安心感をもたらすことができる。そして、貧しい家庭の親も子供も満足できるような無償の国民教育が行われれば、より良い未来への希望という大きな喜びを彼等に与えることができる。貧困を経験したことのない者にはなかなか理解できないが、公的保健制度や公教育がもたらす安心感と希望は、これまでずっとこうした「贅沢」とは無縁だった人々の暮らしに大きな幸福感を与えることができるのである。

その安心感や希望が職権乱用によって踏みにじられていること、そして、多くの場合において貧しい人々の声を政治の場で代弁すべき立場にある者が職権乱用の張本人であることは、南アジアの貧しい人々の知る事実である。保健や教育における悪い統治が問題となっている国々においては、これはもはや偶発的な事件ではない。長年にわたり組織的な不正が行われ、何百万人もの貧しい人々を苦しめ、その裏側で、さまざまな不正行為に絡む金銭の額はますます高くなっている(ある国では、教育担当大臣が交代するたび教科書の値段が1円相当額引上げられることで知られているが、これは選挙活動費用を賄って余りある額である)。いくつかの国々では政党に対する資金提供が日常的に行われるまでに不正が組織化しており、犯罪組織が関係している場合すらある。

このように、悪い統治が貧しい人々に与える心理的な影響、彼等の不満や怒りは、いかに誇張しても誇張しすぎることはない。すさまじいほど強烈な自主独立の精神を持つ南アジアの貧しい人々についてはなおさらである。

「開発」の結果、南アジア諸国では、人口の若年化(その多くは失業者)が進み、持てる者と持たざる者の格差が広がり、(テレビやその他の通信手段により)情報の入手が容易くなった。

こうした要因が重なり合うことによって、貧しい人々の不満と怒りはますます高められる傾向にある。彼等は、罠にはめられ、取り残され、二流市民の烙印を押されたかのような屈辱感と現状を変えることのできない無力感に苛まれているのである。

何世代にもわたり蔓延し、放置されてきたこの状況が政治的・宗教的過激主義者を生み出す絶好の温床となった。こうして貧困は「戦略的リスク」となった。そして、そのリスクとは国家が財政的又は政治的に混乱するかもしれないリスクなのである。だからこそ、南アジアの思慮深い指導者たちは貧困削減に戦略的に取組んでいる。そして、これがまさしく、全世界が貧困を心配しなければならない理由なのである。国際的なテロ組織を通してなのか、より良い生活を求めて国境を越える移民を通してなのかはさておき、いかなる国の安全保障も一国のみで確保しうるものではなく、他の国々の運命と密接に絡み合っている。9月11日に起こったことは、この事実を世界中の人々に思い知らせたのである。

次号以降、南アジア諸国が抱える国家レベルでの戦略的なリスクの分析やODAの姿勢等について、近日公開予定の私の連載コンテンツの中で具体的に論じていきたい。

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2005年06月13日

G8の債務全額削減決定、アフリカ諸国は歓迎

引用ー朝日.com

アフリカを中心とする18カ国の債務計400億ドル(約4兆3000億円)を全額削減するとした主要国(G8)の財務相会合の決定に、対象になったアフリカ諸国などは12日、次々に歓迎の声を上げた。一方で、決定の遅さへの批判や、さらに多くの貧困国の債務を減らすよう求める声も出た。

 「一報を聞いて興奮した。新規に雇用する教員数を3000人以上も増やせる」。ザンビアのマガンデ財務相はこうコメントした。モザンビークのディオゴ首相は「対外債務は国を悩ませてきた。決定には満足し感謝している」とAFP通信に語った。

 全額削減の対象になったアフリカの14カ国では、従来の返済資金を、医療や教育などに充てることになる。AP通信によると、タンザニアでは小学校に出席できる児童が66%も増え、モザンビークではすべての子どもが予防接種を受けられるようになる見込みだという。

 これに対し、ウガンダのブツロ情報相は決定を歓迎しつつ「とっくに実行されているべき決定だ」と、以前から要求があった債務削減への取り組みの遅さを批判した。

 アフリカで支援を続ける非政府組織「アクション・エイド」は「まだ40カ国以上の貧困国が同じような重い債務に苦しんでいる」と指摘した。

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G8財務相会議 アフリカ貧困国債務の完全免除で共同声明

引用-Yahoo News

【ロンドン今沢真】ロンドンで開かれた主要国(G8)首脳会議(英グレンイーグルズ・サミット)の財務相会議は11日午後(日本時間11日夜)、2日間の日程を終え閉幕した。

焦点のアフリカ支援問題は、一定の条件を満たした貧困国の債務を完全免除し、新たな資金支援を盛り込んだ英国案で合意し、これを盛り込んだ共同声明を採択した。新たな資金支援に反対していた米国が方針転換し、英国に同調したことで決着した。反対していた日本とフランス、ドイツは貧困国の政策を審査することなどを条件に歩み寄った。
 現時点での債務の完全免除の対象国はアフリカを中心とする18カ国。貧困国の世界銀行、国際通貨基金(IMF)、アフリカ開発銀行の債務をすべて主要国が肩代わりし、今後数十年にわたり、債務返済を完全に免除する。免除額は総額で400億ドル(約4兆3400億円)にのぼる。
 アフリカ問題は、議長国の英国が首脳会議の主要テーマと位置づけた。7月の首脳会議でブレア英首相が今回の支援策を盛り込んだ包括的なアフリカ支援策を打ち出す。
 共同声明では、原油高が世界経済の大きな懸念で、これを乗り越えて成長を続けるため、各国に構造改革を強く求めた。日本と米国には、とくに財政健全化に取り組むよう促した。世界経済は、04年に比べ05年はやや減速するとの見通しが強まっている。G8は原油高と世界的な貿易不均衡の是正が課題であるとの認識で一致した。このため、日米と同様、欧州各国とロシアにも構造改革を進めるよう求めた。
 また、主要国、新興国のなかで経済成長が偏っていることも問題点として指摘した。
 また、経済成長には公正な貿易ルールの確立が必要だとの考えで一致した。世界貿易機関(WTO)の新多角的貿易交渉(新ラウンド)が進み、年末に予定されている香港での閣僚会議で06年末をめどにしている合意に向け、進展するように期待している。

 ◆財務相会議での合意・確認事項

・アフリカを中心とした重債務貧困国は、一定の条件を満たせば、国際金融機関に対する債務を完全免除
・05年の世界経済の成長は、04年より緩やかになるが堅調。原油高の懸念や貿易不均衡の課題を抱える
・世界経済の不均衡是正のため、米国は財政健全化、欧州とロシアは構造改革、日本は財政健全化を含む構造改革への取り組みが必要
・原油供給と精製能力向上のための投資は産油国、石油関連企業、消費国共通の利益。エネルギーの効率的利用が重要

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2005年06月11日

ODA、実績ベースでの増額検討 谷垣財務相が意向示す

引用-朝日.com

谷垣財務相は10日、ロンドン市内のホテルで記者団に対し、政府の途上国援助(ODA)の増額を検討すべき時期にきているとの小泉首相の発言に関連し、「一般会計からの無償援助だけでなく、財政投融資でやっている円借款や債務削減、(国際機関への)出資国債など、いろいろな手法を組み合わせて、その中で何ができるのか検討したい」と述べた。

来年度のODAを巡っては、国連の安保理常任理事国入りを目指す外務省が、ODA予算の増額を目指している一方、財政再建を優先させたい財務省は、一般会計での増額には難色を示している。谷垣財務相の発言は、財投などを含めた実績ベースで、ODA増額を検討する意向を示したものだ。

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G8財務相会議:ロンドンで開幕 アフリカ支援問題協議

引用−MSN-Mainichi Interactive

【ロンドン今沢真】主要国(G8)首脳会議(英グレンイーグルズ・サミット)財務相会議が10日夜(日本時間11日未明)、ロンドンで2日間の日程で開幕した。

初日はアフリカ支援問題を中心に協議。英国が貧困国債務の完全免除と新たな資金支援を主張し、資金支援に慎重だった米国が初めて同調した。日本とフランス、ドイツは反対したが、米国の方針転換で7月の首脳会議での合意に向け、日仏独にも妥協を探る雰囲気が高まってきた。

 英国案は貧困国の国際機関からの債務をすべて免除し、主要国の信用を担保に調達する年間500億ドル(5兆4000億円)の新規資金で国際機関の免除額を穴埋めする内容。貧困国への新たな支援も行う。米国はこれまで、債務の完全免除は賛成していたが、免除額の穴埋めや新たな支援には反対していた。

 日本は「全額免除はモラルハザード(倫理観の欠如)につながる」と反対し、仏独も同調。10日の財務相会議でも、米英と日仏独が激しく対立したが、米英が同一歩調をとったことで、今後首脳会議に向けて妥協案が浮上する可能性もある。

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2005年06月10日

日本の富裕層134万人 全世界では830万人

引用ーYahoo News

世界で保有資産を100万ドル(約1億400万円)以上持つ富裕層人口は、昨年末時点で前年比7・3%増の830万人と約60万人も増加したが、日本は2・4%増の134万3000人と伸び率では世界の中で低水準にとどまったことが10日、米証券大手メリルリンチなどが発表した報告書で分かった。

それによると、世界の富裕層の資産(居住用の不動産を除く)は、8・2%増の30兆8000億ドルと2年連続で増加し、過去3年間で最大の伸び率だった。日本の富裕層の資産は2・0%増の3兆3420億ドル。
 地域別にみると、北米は債券高や減税の恩恵を受け9・7%増の270万人となり、欧州(4・1%増の260万人)を上回った。日本を含むアジアも8・2%増の230万人と急増したが、日本は株価の停滞やデフレ基調の継続などから伸び悩んだ。

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小泉首相、ODA予算の増額検討を表明

引用-朝日.com

小泉首相は10日昼、一般会計で6年連続で減少している政府の途上国援助(ODA)予算について、「今までのように削減していくだけではなく、増額を検討しなくてはいけない段階にきている」と述べ、来年度の予算編成で増額を検討する意向を明らかにした。首相官邸で記者団に語った。

 来年度のODA予算については、増額に転じたい外務省と、削減を維持したい財務省との間で意見が対立している。政府が6月下旬に決める「骨太の方針2005」の原案では、「十分な水準を確保する」としており、首相の発言は「骨太」の最終的な表現にも影響を与えそうだ。

 首相は一方で、「無駄がないか、不必要なものがないか、厳しく見直す必要がある」とも述べ、ODAの効率化が必要だとの考えも強調した。

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世銀総裁「アフリカの貧困削減を優先」・4カ国訪問へ

日本経済新聞

 【ワシントン=小竹洋之】世界銀行のウルフォウィッツ新総裁は7日、就任後初めての記者会見で「アフリカ諸国の貧困削減を最優先課題とする」と言明した。

12日から18日にかけてアフリカ4カ国を訪問し、今後の支援策を協議することも明らかにした。

 前国防副長官の総裁はイラク戦争を主導した新保守主義派(ネオコン)の代表格。欧州には「ブッシュ米政権が掲げる中東民主化を資金面で支える」との懸念がくすぶっている。同日の会見では「5年間の任期中にアフリカを『希望の大陸』に変えたい」と強調し、アフリカ支援に力を入れる欧州との融和を目指す考えを示した。

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2005年06月09日

アフリカ貧困救済、「オイルマネーで」 英財務相

Fuji Sankei Business i

【ロンドン=蔭山実】英スコットランドで7月に開かれる主要国首脳会議(サミット、G8)で主要テーマのひとつにすえるアフリカ対策をめぐり、議長国・英国のブラウン財務相は、原油価格の高騰で恩恵を受けている産油国にオイルマネーをアフリカの貧困救済に振り向けるよう、訴えている。


 ブラウン財務相は5日、英民放テレビの番組で、「産油国に着目したい。原油価格の高騰で多くの収益を得ているのだから、債務帳消し、とくに世界銀行を通じた債務救済で貢献できるはずだ。協力を得られるよう、産油国との交渉を続けていきたい」と語った。

 アフリカ対策ではG8に向けてブレア政権は、関係各国との事前の調整で大きなヤマ場を迎えており、ブレア首相は先月末にイタリアのベルルスコーニ首相と会談したのに続き、7日には訪米してブッシュ米大統領にも協力を要請した。今週末にはロシアを訪れてプーチン大統領と協議するほか、来週には欧州憲法論議と並行してドイツのシュレーダー首相、フランスのシラク大統領とも話し合うとみられる。日本とカナダとはビデオ会議形式で首脳会談を行う予定だ。

 だが、英国が検討しているアフリカの重債務国の大幅な債務帳消しや、新たな援助資金の拠出、国際通貨基金(IMF)などとは異なる仕組みで援助資金を調達する「国際金融ファシリティー(IFF)」の新設などには難色を示す主要国が多く、ブレア政権は調整に苦心している。

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2005年06月08日

アフリカ支援で隔たり残す 米英首脳会談

Yahoo News

 【ワシントン7日共同】ブッシュ米大統領は7日、訪米中のブレア英首相とホワイトハウスで会談、7月の主要国首脳会議(グレンイーグルズ・サミット)で議題となるアフリカの貧困問題などについて協議したが、具体的な支援策をめぐる隔たりは解消せず、決着はサミット本番まで持ち越された。

 記者会見した両首脳は、焦点の重債務貧困国の債務免除について「良い方向に進んでいる」(ブレア首相)と協議進展を強調した。ただ、ブッシュ大統領は「腐敗した国には誰も資金を供与したがらない」と民主化の進展度に応じて援助対象国を選別していく姿勢を重ねて表明、全面的な債務免除には慎重な姿勢を示した。

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2005年06月04日

IMF、貧困国の債務解消問題で解決策を見出すことは可能=英財務相

ロイター
 
[エディンバラ 3日 ロイター] ブラウン英財務相は、国際通貨基金(IMF)が貧困国の対IMF債務を解消する方策を見出すことは可能である、との見方を示した。

 英国がIMFの金準備の一部を売却することを提案した一方、金の評価額を変更するのが良いとした国もあれば、IMFの出資国が貧困国による債務の利払いをなくすために返済を行うべきだとの提案もあった。

 ブラウン財務相は、当地で記者団に対し、「こうした協議から、私は解決策が見出されると信じている」と語った。

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2005年05月28日

地球社会におけるシステム媒介統合の作用・・世界銀行の形成過程から

『神戸女学院大学論集』(第50巻第3号、2004年3月)

はじめに
 本論の問題意識は、戦後の世界銀行の機能の変化を事例としながら、国際社会の構造変化を「参加者の合理的利己主義に基づくシステム」と「社会連帯」という二つの関係のあり方の相克に注目しながら分析することにより、今後の地球社会の変化の可能性を展望することにある。


 ここでいうシステムとは、参加者が貨幣や権力など特定の形態の信号を解釈しながら合理的利己主義に基づき行動するための制度枠組みを指す。こうしたシステムとしては、市場経済システム、法システム、行政機構などがある。国際関係においては、国家という「対等な主権者」を規定し、相互関係を単純化する主権国家システムが基本構造となっている。システムの中で個人は比較的単純な信号に基づいて行動できるため、負担が軽減され、その結果、大規模な相互関係が構築される傾向がある。こうした特徴を持つ近代社会が世界的に広がったのは、さまざまな機能を果たすシステムが分化・生成され、個人の相対的な負担を軽減できたため、他の社会のあり方よりも機能的に優位に立ったことにあると考えられる。
 参加者の行動が予測可能で、安定したものとなるようなシステムの改変は、システムにとって合理的である。システムにとっての合理性は、システム参加者間の対立を調停するための基準となりがちであるため、システムの変化(改変や拡大)はシステムにとっての合理性を増す方向に動きがちである。このような変化は、必ずしも社会的な公正(公平さや人権の保障など)を実現するわけではない。ただ、民主的な諸制度が存在し、社会連帯に基づいた討議が行われる場が健全に機能すれば、「合理的」なシステムが生み出す社会的な矛盾を抑制・解決するための規制が法や政策に基づいて行われることになる。
 国際関係においては、主権国家システムの枠組みの中で交渉が行われ、システムの形成・改変が行われてきた。現在、旧社会主義国の市場経済化により市場経済システムの普及と相互連結は急速に進んでいるが、このことが国境を越えて生み出す社会矛盾を、連帯に基づいて抑制・解決するための制度も社会的条件も不十分である1 。だが、国境を越えた連帯に根ざし、地球的な社会問題を解決するための動きも、市民社会、マスメディア、国際機関などが織りなす地球的な公共圏の中で生み出されつつある。この動きはより「合理的」なシステムを作り出そうとする動きや、システムの中で合理的利己主義を追求する動きとの対立の中で影響力を持ちうるのだろうか?
 本論では、世銀の形成過程を題材にこの問いの検証のための準備作業を行う。以下、世界銀行の形成過程を、市場経済システムにとっての合理性、安全保障システムにとっての合理性、主権国家システムを維持するための合理性に注目しながら分析し、各主体の「合理性の追求」が社会矛盾を生みだしていった検証したい。

1 世界銀行をとりまくシステムの特性
 世界銀行2 は、国際通貨基金(IMF)、貿易に関する一般協定(GATT)とともに、戦後の自由主義経済を秩序づける制度的枠組みとして生み出された。この枠組みを作り出した原動力は、イギリスと米国の二国である。これは主として主権国家システムと市場経済システムの合理化を目指した動きであったが、後に安全保障システムの文脈でもある程度の役割を期待されるようになる。ここでは、まずこれらのシステムの特性を概観しよう。
 世銀の前提となっているのは、戦後の基本的な国際関係を規定している主権国家システムである。これは各国が法的に対等な主権国家であるという理解の下、その交渉により安定した国際秩序を形成することを目的とする。交渉の主体として承認されている主権国家は、国際法に違反しない限り独自の利益を自由に追求することが認められており、合意なく他国の内部に介入してはならないことされている。世銀やIMFは、主権国家システムの中でされた交渉により設立されたが、各国の原資払い込みの金額により意思決定権の比重が異なり、米国など先進工業国の意思が(とりわけ初期は)強く反映してきた。といっても、個々のプロジェクトの実施はあくまで対象国の合意が前提であり、主権国家システムに基づき行動している。
 安全保障システムは、世銀の行動に大きな影響を与えた。ここでいう安全保障システムとは、主権国家システムの中で国家が自国の安全保障のために他国と作る同盟や協力関係をさす。安全保障システムの中で行動する政府代表は、軍事力・経済力などを考慮しながら、他国との関係作りを行い、自国の安全保障を実現しようとする。基本的にアナーキーな構造を持つ現在の主権国家システムの秩序維持機能は限定的なので、安全保障は常に国家の重要な課題とされてきた。冷戦時には両陣営が勢力均衡に基づく安全保障戦略を採用、それぞれ自国の陣営に属するよう他国に働きかけることとなった。この結果、「国家間の連帯」に基づいて援助を求める発展途上国の要求が政治的な力を持ちやすい環境が生まれ、自由主義陣営が主導権を持つ世銀への資源提供もある程度確保された。世銀側も、こうした環境を活用し資源動員力の拡大を試みた。
 市場経済システムは、個々の参加者の経済活動を保証するための枠組みである。国内では公的機関による経済活動の保障、規制・監視や市場を支える社会的領域での活動(教育・医療など)によりその機能が保証される場合が多い。IMFは、各国家が国際的市場経済システムに参加する資格を担保する監視機構であると同時に、短期的な通貨融通を行い、貨幣の交換性を確保し、国際的な市場経済システムを支える。世銀は、当初は国際市場経済システムを秩序づける制度である以上に、市場の補完を行う主体という性格を強く持った。公的な裏付けを得つつも、世銀自体は、市場から調達した資金を主として用いて、融資を行うという市場の資源分配機能を果たしていたからである。とりわけ、国家への不信感が強かった設立当初の1940−50年代は、金融市場での信頼確保の要請が世銀の行動を強く規定していたため、融資対象プロジェクト自体の採算性が重視されていた3 。なお、1980年代以降、途上国の累積債務の解決が大きな議題となってからは、世銀はIMFとともに、構造調整融資を通じて国際的な通貨制度の機能を確保するという役割を担うようになる。
 このように、世銀は組織としては主権国家システムを基盤とし、資源は市場経済システムから獲得しながら、安全保障システム上の要請や市場経済システム上の要請に反応し、行動してきた。この過程で、官僚組織としての世銀は、自らの組織維持・拡大もはかっている。世銀の融資が引き起こした社会矛盾は、こうした複数のシステムの要請がもつ矛盾の現れであると同時に、個々のシステム自体の持つ社会的な非合理性の現れでもある。以下、世銀の発展の経緯をシステムの要請と矛盾の顕在化の過程に注目しながら検証する。

2 世銀の設立と初期の活動・・主権国家システムと市場経済システムの確立を求める動きの中で
 ブレトンウッズ体制などの戦後体制の構築を主として行ったのは、イギリスと米国である。早くも1941年にルーズベルト大統領とチャーチル首相が会談を行ったときに、戦後体制についての議論がされている。ルーズベルトは、戦後の平和を保障するためには自由貿易が不可欠であり、特別な貿易協定、とくに大英帝国と植民地のあいだに現在あるようなものは不要と主張、消極的なチャーチルを押し切って、大西洋憲章第4条において、「戦争が終われば、大国と小国とを問わず、戦勝国と戦敗国を問わず、すべての諸国は経済的繁栄に必要な世界の市場と原料資源に対して平等なアクセスをもつ」という原則を組み込んだ。
 こうしたルーズベルトの主張は、宗主国・植民地がブロック経済を形成し、国際貿易を収縮させ大恐慌をもたらした1930年代の経験の反省に基づいたものだった。この提案は、同時に打ち出された民族自決の原則とも整合性があった。民族自決は、各国が軍事力により植民地拡大競争を行うという本質的に不安定な国際関係に終止符を打ち、対等な主権国家の相互の合意により秩序形成を行う、より安定した「主権国家システム」の確立をめざしたものである。これが実現し、植民地解放が行われた場合は、宗主国・植民地の支配関係を失わせるので、資源・市場を権力により確保することは困難となる。その中で各国の経済活動を保証するためには、自由主義経済の原則が不可欠だった。すなわち、主権国家システムと国際的な市場経済システムの確立を同時に目指したのがこれらの提案であった。しかもこの提案はシステムにとって合理的であるだけではなく、米国の利害にもかなっていた。当時の米国の植民地は限られており、資源や市場へのアクセスが容易になる自由主義経済は、米国の国民経済にとっても不利になることはない提案でもあった。4
 世界銀行は、国際通貨基金(International Monetary Fund:以下IMFと略)とともにブレトンウッズ会議で設立が決められている。実は、ここでの議論の中心は国際通貨基金であり、世銀について議論に費やされた時間は短く、そのあり方について詳細な議論がされたわけではない。何にせよ、ここで採択されたIBRDの設立協定第一条では次の四つの目的を謳っている。1)生産的な投資を促進することにより復興と開発を支援すること、2)民間の外国投資に参加などすることによりそれらを促進し、民間の資金が入手できないなどでそれが必要な場合には、直接を資金を提供すること、3)長期的に収支のとれた国際貿易を、生産的な国際投資を奨励することにより促進すること、4)他の国際的な借款に関連した形で借款・保証を提供することにより緊急なプロジェクトが優先的に扱われるようにすることである。
 目的の一条で「復興」と「開発」の両者が記述されたが、実際に設計者たちの念頭にあったのは、主として復興であった。とりあえず、国際的な市場経済システムが機能するためには、それぞれの主体が健全に活動できなくてはならず、戦争により破壊された生産力を回復することが国際的な市場経済システムの機能のためには不可欠であった。市場経済システムを通じて既に深く連結されている地域の復興は、米国の利益にもつながるとされた。世銀には主としてヨーロッパ復興への貢献が期待されていたのである。「開発」が組み込まれたのは、長期的な市場経済システムにとっての合理性を設計者たちが評価したということ及び、中南米など途上国もブレトンウッズ会議に参加していたため、こうした国々への配慮が必要であったということによる5 。
 欧州の復興が米国にとって重要な課題であるとしても、そのための方法として、「投資の促進」など間接的な方法にとどまっていたのはなぜなのか?税金の投入ではなく、自己の利益を追求する主体からなる「市場」から、復興や開発という目的に資金を導入するという考え方が採用されたのは、もちろん国境を越えた連帯が十分に存在していなかったためであろう。とりわけ、この段階では他国を支援できる余裕を持つのは米国だけであり、国内指向の強い議会が歳出の決定権を持つ米国政府には、これ以上のことはできなかった6 。
 このような枠組みの中で構想された世銀は、設立後は市場経済システムの中の一つの主体として行動することが期待された。1960年に国際開発協会(IDA)が設立されるまで、世銀の資金は、世銀債を通じて市場から市場金利で調達されていた。世銀が通常の銀行と異なるのは、政府の名目的な払込資金により債券が保障されていたこと、配当を株主に支払う必要がないということの二つである。世銀は、財政的な余裕を用いて、多くのスタッフを雇用、借り入れ国の指導や市場への情報提供を行うことにより、借り入れ国の借り入れ能力を補強するという市場補完的な役割を果たすこととなる。
 なお、当初の目的であった欧州の復興は、市場ベースの金利で資金調達を行う世銀の手には余るものだということがすぐ明らかになった7 。資金源であったウォール街では、1930年代の国家債券のデフォルトの記憶が新しく8 、政府に貸し出しを行う世銀への信頼も低かった。結局、欧州への大規模な資金投入は、米国政府単独の援助計画であるマーシャルプランを待つこととなる。1947年に提案されたマーシャルプランは、冷戦の深まる中で、欧州の経済的な混乱がソ連陣営に利するという米国の安全保障上の考慮にもとづき1948年に承認されている。
 世銀の意思決定者(総裁、および各国政府の払込資金に応じて投票権を持つ理事)は、1949年から残された領域である「開発」にとりくむことを選択していく。理事の中には途上国の代表もおり、さらに協定に目的として書き込まれている以上、そのことには形式的には問題はなかった。しかし、資金はあくまで市場から調達することされており、当時の市場環境の中で、そのとりくみは限られたものとならざるをえなかった。借り手である国家への信頼がないため、金融市場関係者の信認の獲得が優先され、確実に投資回収が見込めるプロジェクトを特定して融資するという方法がとられたのである9 。1950年代ですら、市場の信用を確保するため、世銀の供与した資金の43%はヨーロッパ、オーストラリア、ニュージーランド、日本などの国に向けられていた。
 世銀の設立時の中心的な課題は、市場経済システムの中で深い相互依存関係にあった主体の生産力強化により、市場システムの健全な機能を実現することであった。だが、主権国家システムの維持の必要性から途上国の意見も考慮に組み込まれ、「開発」という普遍的な目的も世銀に規定されることになる。「復興」が手に余ると認識した世銀経営陣が、組織維持のため「開発」に軸足を移しつつ、市場にとって合理的とされうる範囲内で活動していたのが設立時から1950年代の世銀であった。
 
2 IDAの設立からマクナマラによる世銀拡大・・冷戦下の「国家の連帯」
 世銀の開発へのとりくみへの期待は少しずつ高まる。その背景には、冷戦による東西陣営の援助への関心の増大と、途上国の独立、国連への参加がある。冷戦の中では、自陣営への支援確保の重要性が増し、途上国の主張を無視しにくくなる。とりわけ、国連機関においては、途上国の意見を無視できなくなってきた。この結果は、1960年の国際開発協会(International Development Association: 以下IDA)の世銀グループ内での設立につながる。手数料だけで無利子の融資を行うIDAは恒久的に資金の注入を必要とする機関であり、途上国に資金を供与する援助機関としての側面を持つ。こうした資金の使途については市場性についての評価はさほど重要ではなくなるため、政治的な判断で融資先を決定できるようになった。これにより、世銀は主権国家システムにさらに深く組み込まれていくことにもなる。
 IDAのような資金供与機関を求める声は、すでに1940年代末からあがっていた。1949年の国連経済社会理事会では、途上国向けに低金利での資金供与を行う国連経済開発局(UNEDA)の設置を求めるレポートが出された。さらに1952年には、国連総会で第三世界の経済開発のための特別基金の設置を求める提案が採択される。その提案は、低開発国への技術援助の提供、技術・物資の調達の支援、緩い条件での貸付などを行うことを想定したもので、内容的には後に生み出されたIDAとよく似ている10 。
 当初、こうした国連を中心とする動きに米国は反対をする。しかし、冷戦の中で途上国を自由主義陣営つなぎとめるためにも、西側諸国が何もしないわけにいかなかった。この時期は、ソ連が非常に譲渡的な条件で第三世界に融資を行っており、それに対抗する必要もあったのである11 。しかし米国一国でそれを行うのは荷が重い。だが国連内に設置すれば、費用負担を行う米国などの意見が通りにくい。このため、世銀内にIDAを設置するという決定を選んだのである。
 世銀を「単なる銀行」から開発金融機関へ変える動きに対して、当時の世銀総裁は当初反対した。ブラック世銀総裁(Eugene Black、在任期間1947年〜1962年)は、1960年のオックスフォード大学での講演で、「外交的な譲歩や軍事的な同盟との交換で経済援助を提供する外交官や軍事戦略家は、秩序だった経済発展に益するわけではない」と発言している12 。金融市場に対して世界銀行が信用できる投資先であることを確信させることに力を注いできたブラック総裁としては、市場経済システムの合理性に反した判断を行う可能性のある機関となることには抵抗があったと考えられる。さらに、資金供与のみで開発の問題が解決できるという考え方に対しても批判的であった13 。しかし、世界銀行はあくまで国際機関であり、最終的な発言権は過半数の株を占める米国にあった。結局、議会の後押しを受けた米国政府の案が通り、IDA設立が進められた。
 この制度改変は、市場経済システムにとっての合理性(市場経済の途上国での健全な発展)を主要な目的としていたわけではない。先進工業国にとっては、自陣営の立場を強化するという安全保障システム上の合理性を求めた行動であった。制度改変を要求した途上国にとっては、先進工業国に対して国境を越えた連帯を求めることにより、政府に資金提供をさせるためのものであった。途上国政府の利害が、西側諸国の安全保障の必要性と一致したため、この提案は出資国側に受け入れられたのである。このような安全保障システム上の要請に西側諸国が反応する中で、世銀は市場経済システムの一主体から、政治的な意思に基づいて行動する開発機関へと変容していく。
 世界銀行の開発機関としての性格を強化しようとしたのが1968年より総裁の任についたマクナマラ(Robert S. McNamara、在任期間1968〜1981年)である。マクナマラは、強力な使命感をもって世銀の運営に取り組み、より主体的に開発に関与しようと試みた。この際、マクナマラは、次のような二つの理解にもとづいて行動している。第一は、各国の国内の安定を安全保障上の課題として認識し、貧困をその原因としたことである14 。安全保障を外交的/軍事的な側面に還元し、援助を「外交的な譲歩や軍事的な同盟」を獲得する通貨としてとらえがちだった「外交官・軍事戦略家」と異なり、国内の経済問題にも関心を払ったという意味では、マクナマラは単純な安全保障システムの枠組みを越えた発想を行った。第二は、貧困解決のためには、世銀の提供する資金の額が重要な意味を持つと考えたことにある。着任して半年後の1968年9月に、マクナマラは理事に対して「今後の5年間でこれまでの5年に行った融資の二倍の金額を支出することが望ましい」と報告し15 、事実、世銀の融資規模は急激に拡大した16 。このため、マクナマラは、世銀のIDA資金だけではなく、通常の世銀債を通じて市場から調達する資金も拡大し、調達先もニューヨークだけではなく各国の金融市場に積極的に働きかけ拡大していく。
 こうしたマクナマラの変革を可能とした構造的な条件としては次のようなものがある。
 第一に安全保障システム上の必要性の認識がたかまったことである。この時期は、ベトナム戦争、ソ連のアフガニスタン侵攻等を通じて、冷戦が顕在化した時期である。ドミノ理論で予言された共産主義の拡がりをくいとめるために、貧困解決と資金提供により西側陣営の拡大を行うべきであるという主張は、世銀を支える政府に訴求力をもっていた。安全保障システムの中での世銀の地位が高まっていたのである。
 第二に、資金供与側の市場環境の変化がある。1973年のオイルショック以降、産油国で投資しきれなかった資金が先進国の金融市場に還流、投資先を求める資金が余っていた。国家デフォルトの記憶は薄れ、世銀のそれまでの実績に対する評価も相まって、この時期は世銀債発行による資金調達は比較的容易なものとなっていた。市場経済システムの中での世銀への期待も高まっていたのである。
 
3 世銀の融資がもたらした経済的・社会的影響
 世銀が開発面でどのような効果をもたらしたかについては、さまざまな評価があり得よう。ただ間違いないのは、総合的な評価はなんであれ、相当数の問題プロジェクトを引き起こし、多くの国の経済構造に否定的な影響をもたらしてきたということである。その直接的な理由には、受け入れ国政府に起因するものと、世銀の方針に起因するものと両方がある。さらに、こうした問題の改善を困難にした構造的な要因もある。これらの問題を概観した後で、これらがシステムの特徴とどのように関わっているのか整理しよう。
 まず、そもそも外貨立ての融資により開発を行うという世銀の性格自体に限界がある。世銀は贈与機関ではなく、あくまで金融機関である。融資を受ける国は、ドル建ての返済を求められる以上、輸出を行うことにより国際的な市場経済システムに積極的に参加するしか手だてはない。融資を受けるということは、国際的な技術や知識、資源へのアクセスを意味するが、NIES諸国のようにそれらを十分に使いこなし輸出(=外貨獲得)につなげる用意のできていた国々を除けば、債務の返済が大きな負担となって残ることになる。国境を越えた連帯が欠如している中で、税金からの支出がされなかったなかの便法として選ばれた「融資による開発」という世銀の戦略はしばしば失敗し、重債務国を生みだした。これは、マクナマラ時代の融資金額優先の組織運営の中でとりわけ顕著に見られる。マクナマラの「資金投入額が大きければ貧困が解決できる」という根拠のない確信が、この問題を悪化させたのである。
 本来、市場経済システムにおいては、融資者が相手のリスクを個別に評価し、適切な資金提供を行うべきである。しかし世銀を介し先進工業国により保障がされていたこと、資金が余り借り手市場となっていたため安易な貸し出しが行われたこと、国家全体の経済発展の評価が困難であったこと、とりわけ外貨獲得能力への貢献度の評価が困難であったことなどにより、市場経済システムの本来の機能は働かなかった。世銀の専門家たちを信頼することは、出資国政府、途上国政府、市場関係者のすべてにとって都合の良い方法であった。結果的に多額の債務を抱え、返済能力を示せない国に対しては、緊縮財政と輸出優先の産業政策を条件として追加の融資を行う構造調整融資が行われることとなる。いわば、領域内の資源全てを活用し外貨を獲得することを優先するよう求められたのである。この結果、医療、教育、食糧など多くの面での困難を市民にもたらし、基本的な社会的・経済的権利の侵害状況さえ生みだした17 。
 世銀が融資した個別のプロジェクトなども、問題を引き起こしている。世銀は当初より道路建設などの多くのインフラ整備や電源開発プロジェクトに融資を行っている。すでに述べたように、こうしたプロジェクトは当初は、市場性の評価を行いながら慎重に行われたはずだったが、自然環境の破壊、保健の状況、立ち退きなどにともなう社会影響などの外部不経済は計算に組み入れられていなかったため、結局大きな問題を引き起こしている。こうした例は、エジプトのアスワンダムなど枚挙にいとまがない。市場の信認の確保を優先したプロジェクトが選ばれたブラック総裁時代の21の主要プロジェクトの大半は、深刻な社会・環境への影響を引き起こしている18 。貧困解決を訴え、農村開発などへの融資も増えたマクナマラ総裁時代は、融資実績が世銀職員の評価基準とされたため、むしろさらに多くの質の悪いプロジェクトに融資が行われている。
 問題プロジェクトが実施された直接の理由は、世銀の技術的、経済的な判断ミスであったり、借り入れ国政府の無責任さであったりする。だが、これらの問題は個別の技術レベルの問題というよりも、プロジェクトの問題を防ぐことが困難な状況があったため必然的に生まれたと考えるべきであろう。
 世銀は、基本的には主権国家システムの中で行動するため、プロジェクト実施のさいに相手国の責任範囲とされる立ち退きなどの問題に関与することはなかった。とりわけ、安全保障システムの影響が強かった冷戦下の世銀は、自由主義陣営への支援獲得も目標の一つであり、とりたてて問題を明らかにするインセンティブは働かなかった。相手国政府が、国内の社会矛盾に対応し行動を変える体制を有していれば問題は事前に防げたり解決できたりしたかもしれないが、世銀の融資対象は、軍事政権下のブラジル、スハルト大統領支配下のインドネシア、マルコス支配下のフィリピン、ニエレレ大統領下のケニアなどの権威主義的な国であった。こうした国では、計画通りに事業実施することはできるかもしれないが、否定的な影響を受けた住民の意見は反映されない。
 世銀が誤った政策を提案し、それを無批判に相手国が受け入れた結果問題が起きた場合もある。一部の輸出産業振興策などである。本来は、世銀は内部に専門性を獲得することにより、市場への適切な情報提供を行い資金の適切な運用を行うべきだったのだが、世銀自体に対する先進国の拠出による保障、相手国政府も世銀への資金返済を優先するとりきめがされていたなど、主権国家システムの中で資金の保障がされていたため、経済的なリスクはなかった。しかも、借り手の政府には十分な専門知識がない場合は、世銀の提案を無批判に受け入れるしかなかった。権威主義政権であれば、こうした資金導入に対する批判はありえなかったし、そうでない場合も資金導入時は国内の納税者に負担をかけないため、受け入れ国国内での詳細な検討はされなかった。世銀の内部でも、マクナマラの方針に基づき資金供与の額を競う世銀スタッフは、案件の質について検討するインセンティブは働かなかった。そもそも資金供給圧力の強い金融市場では、案件の適切な審査に失敗しがちだが、世銀は国家の保障によりリスクが回避されていたため、安易な資金投入先となった。

4 まとめ・・世銀の成立・変容とシステムの影響
 世銀は、戦後の西側の秩序の一部として設計されたが、当初想定されていた中心的課題は、すでに深く相互依存関係にあった市場経済システムの主体の健全化(すなわち戦後復興)であった。しかし、主権国家システムの維持のための途上国との妥協や米国の自国の支持者確保などの意図もあって、中小国の課題である「開発」も目的に組み入れられる。現実に復興に関与する力がなかった世銀の経営者や理事は、結果的に組織の維持のため、開発に焦点を当てて活動するようになる。世銀は、オイルダラーの先進国への還流などの時代的な背景の中で、途上国を急速に国際的な市場経済システムに統合していくことにつながった。だが、システムの制約(安全保障が主たる問題であり対象国の政府の支持を獲得することが中心課題とされたこと、各国内部の社会統合の問題に対する理解がなかったこと、主権国家システムの中で国内の「政治的要素」についての介入ができなかったこと)と世銀組織の問題(国際経済や開発過程についての理解の欠如、融資額によるスタッフの評価)などからこうした市場経済システムへの統合は歪んだものとなる。この結果生まれた社会矛盾を修正するという動機付けは、受け入れ国の指導者にも、主要理事国にも存在していなかったため、問題は予防も解決もされることはなかった。その結果が、累積債務や個別プロジェクトによる社会・環境破壊の顕在化につながっていく。
 この時期は、冷戦を一つのきっかけとし、地球社会のシステム媒介統合が、途上国の西側の安全保障システム及び市場経済システムへの統合という形で進められた時期であった。安全保障システムに基づき、途上国政府の懐柔と自陣営への引き込みが優先課題とされ、資金が余っていた市場経済システムの中で、先進国の保証付きの世銀融資は格好の投資先とされた。世銀の組織文化がもたらした融資額競争と相まって、貧困解決により社会的な危機を回避しようとしたマクナマラの意図と反する結果が、各地で生まれていくことになっていくことになったのである。
 しかし、こうした社会的な危機は、途上国における抵抗運動につながっていく。これらの社会運動は、世銀の融資業務実施の障害となると同時に、安全保障システム上の問題ともなるため、世銀内部でも解決・予防すべき課題と認識されるようになっていく。さらに、1980年代に入って、こうした運動と連携した環境団体、人権団体、先住民族支援団体が国際的なキャンペーンを開始し、各国のメディアや議会において議題化されていった。このことが、世銀改革に対する圧力を生み出していくことになるのである。


abstract
The Impact of System Integration in the Global Society: From the Case of the Formulation and Transformation Process of the World Bank Group

This article is aimed at analyzing the dynamism of the global society by focussing on two modes of integration: system integration based on the actors' rational/self interest and integration based on solidarity. Actors in the system act based on their self interest as judged by the signals conveyed in the system in a way specialized in the system. Regimes to facilitate the integration through the systems were negotiated in the nation-state system and resulted in interconnected world. However, these interconnectedness does not guarantee social justice as it is based on the rational/self-interest. In this article, the World Bank is studied to analyze how such a connection is created by looking at how the motivation of the concerned parties are controlled by the systems, such as security system, nation-state system, and market system.

1 Jurgen Habermas, "The European Nation-State: On the Past and Future of Sovereignty and Citizenship", in Jurgen Habermas (edited by Ciaran Cronin and Pablo De Greiff), The Inclusion of Others: Studies in Political Theory (MIT Press, 1998), pp. 120-121, Shaw, Martin Global Society and International Relations (Cambridge: Polity Press, 1994)

2 なお、正確には当時の世界銀行の名称は、国際復興開発銀行(International Bank for Reconstruction and Develpment: IBRD)だが、後に述べる国際開発協会も統一的に運営されており、本稿ではこれらをあわせて世界銀行と呼んでいる。

3 Devesh Kapur, John P. Lewis, and Richard Webb, The World Bank: Its First Half Century Vol.1 History (Brookings Institution Press, Washington, DC, 1997), pp. 88-89

4 もちろん、この新しい国際経済・政治秩序は、植民地に深い利害関係を持つものにとっては不利なので、変化は簡単には進まなかった。だが、旧来の権力による支配は、社会統合を生み出すことはなく、支配のためのコストは高まる。このため植民地の独立は進行し、現在では地球上のほぼ全ての地域が主権国家システムに覆われている。

5 Devesh Kapur, John P. Lewis, and Richard Webb, The World Bank: Its First Half Century Vol.1 History (Brookings Institution Press, Washington, DC, 1997), p. 60

6 実際、世銀やIMFという比較的政府の負担の小さい国際機構の設置、加盟についても強い反対が存在していた。このため、政府は世銀協定を上院の2/3の賛成の必要な条約ではなく、過半数で採決できる行政協定と位置づけにした上、国民の支援をえるために広告会社と契約し、全国的なキャンペーンすら行っている。See, Catherine Caufield, Masters of Illusion : The World Bank and the Poverty of Nations (Henry Holt and Company, 1996), pp. 44-45.

7 例えばIBRDの1947年の年次報告書は、ヨーロッパの復興がブレトンウッズで想定されていたよりもはるかに困難であると指摘している。International Bank for Reconstruction and Development, Second Annual Report to the Board of Governors for the Year Ended June 30, 1947, p. 7.

8 Devesh Kapur, John P. Lewis, and Richard Webb, The World Bank: Its First Half Century Vol.1 History (Brookings Institution Press, Washington, DC, 1997), p. 77参照。

9 BRDの融資活動は金融市場の信認を獲得し、1959年までには、トリプルAの評価を得ている。Devesh Kapur, John P. Lewis, and Richard Webb, The World Bank: Its First Half Century Vol.1 History (Brookings Institution Press, Washington, DC, 1997)。まさに当時の世界銀行は開発機関というよりも「単なる銀行」であったといってよい。Devesh Kapur, John P. Lewis, and Richard Webb, The World Bank: Its First Half Century Vol.1 History (Brookings Institution Press, Washington, DC, 1997)。もちろん主として国家相手に融資をするので、政府に対する信頼が十分あれば利益の上がる「プロジェクト」にこだわる必要はないのだが、実績が十分積み重ねてられない設立当初は、「具体的な利益の上がるプロジェクト」を見せることにより金融市場関係者の信頼を獲得するという意図もあった。

10 本間雅美『世界銀行と南北問題』(同文館、2000年)151-154頁参照。

11 前掲、115-116頁。

12 Devesh Kapur, John P. Lewis, and Richard Webb, The World Bank: Its First Half Century Vol.1 History (Brookings Institution Press, Washington, DC, 1997), p. 136.

13 Jochen Kraske et. al., Bankers with a Mission : The Presidents of the World Bank, 1946-91 (Oxford University Press, Oxford, 1996)esp. Chap. 3.

14 Jochen Kraske et. al., Bankers with a Mission : The Presidents of the World Bank, 1946-91 (Oxford University Press, Oxford, 1996), p. 168

15 ibid. p. 172

16 マクナマラが就任する前の22年間(1947年〜68年)で、世銀は708のプロジェクトに対して総額107億ドルの融資を与えていた。マクナマラが総裁に就任した後は、第一期(1968〜73年)だけでも、新規760件、134億ドルに達した。スーザン・ジョージ、ファブリッチオ・サベッリ『世界銀行は地球を救えるか  開発帝国五〇年の功罪』(朝日新聞社、1996年)、52頁

17 人権と構造調整の関係については、国連人権委員会でも議論されている。See, UN Doc., E/CN.4/1997/WG.17/2, Implementation of Commission on Human Rights Decision 1996/103 entitled "Effects of Structural Adjustment Policies on the Full Enjoyment of Human Rights": Compilation of comments on the preliminary set of basic policy guidelines (ECOSOC, 4 February 1997)

18 Catherine Caufield, Masters of Illusion : The World Bank and the Poverty of Nations (Henry Holt and Company, 1996)

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2005年05月12日

銀総裁人事、米国内外で賛否両論

日本経済新聞社

【ワシントン=小竹洋之】ブッシュ米大統領が16日、新保守主義派(ネオコン)のウルフォウィッツ米国防副長官を世界銀行の次期総裁に擁立したことで、米国内外に波紋が広がっている。


 米政府や米共和党幹部は一様に歓迎しているが、米民主党は反発。欧州や非政府組織(NGO)の一部も不快感を表明した。今後の米欧関係などに禍根を残しそうだ。

 ブッシュ大統領は「ウルフォウィッツ氏は熟達した外交官。寛大、公平で、世銀を統率するだけの豊富な経験がある」と称賛。ウルフォウィッツ氏は記者団に「世界の公僕としてすべての意見に耳を傾ける責任がある」と語った。

 米国内ではスノー財務長官や国際通貨基金(IMF)のラト専務理事が歓迎の談話を相次ぎ発表し、共和党のルーガー上院外交委員長も支持を表明した。ただ、民主党のケリー上院議員は「同盟国との関係を修復するというブッシュ政権の言葉はリップサービスだ」と強く批判している。

投稿者 sustena : 01:36 | コメント (0) | トラックバック

国際開発省次官、日本のアフリカ支援は常任理入りに有利

日本経済新聞社

 英国際開発省のスマ・チャクラバルティ次官は14日、東京・内幸町の日本記者クラブで記者会見し、「日本が国際社会で高い評価を維持するためにもアフリカ問題で踏み込んだ姿勢を示すべきだ」と述べ、日本の対アフリカ支援拡大を訴えた。さらに支援強化が国連安全保障理事会の常任理事国入りを狙う日本への支持拡大にもつながるとの見方を示唆した。

次官は東南アジア諸国への日本の政府開発援助(ODA)の成功に触れ「アフリカ支援の格好の先例だ」と強調。産業育成やインフラ整備を巡る日本の支援に強い期待を示した。

 英国は、議長国を務める今年7月の先進国首脳会議(グレンイーグルズ・サミット)で、主要議題の一つにアフリカの貧困対策を取り上げる方針で、次官の発言はそれを踏まえたもの。国際社会では今後、日本のアフリカ支援拡大を求める声が一段と高まる可能性がある。

投稿者 sustena : 01:35 | コメント (0) | トラックバック

空腹の過酷さ

物の豊富なこの世の中で、貧困に関連した原因によって毎日50,000人が亡くなっ
ている。8億人が空腹のまま床についている。私たちはこれについて何をしたら
いいのか――ジョン・サミュエル(John Samuel)が世界社会フォーラム2005で
の基調演説で問いかけた。


私は深い苦悩と怒りを感じながら、ここに立っている。なぜなら、悪いニュース
があるからだ。それは、皆さんを憤慨させるようなニュースだ。皆さんのとても
親しい人が、亡くなったと想像してみてほしい。それは外で遊んでいた自分の幼
い子どもかもしれないし、自分の愛するパートナーかもしれないし、お母さんや
お父さんかもしれない。私がその人の死を伝えなくてはならないと、想像してみ
てほしい。しかもその人が、不自然な理由で亡くなったのだと伝えなくてはなら
ないということも。私が次の文章を話し終える前にすでに、皆さんの兄弟や姉妹
や彼女や子どもだったかもしれない、何百人もの人々が亡くなっている。彼らは
死を余儀なくされている。今このときに、世界中で50,000もの、そのような葬儀
が行われている。私が話している今このときに、100万人の人々が、自分の愛す
る人の葬儀に参列して、墓地に立っている。彼らは皆、私の苦悩と怒りを分かち
合ってくれるだろう。

そう、物の豊富なこの世の中で、貧困もしくは貧困に関連した原因によって、毎
日毎日50,000人の人々が亡くなっている。私たちの兄弟・姉妹の血が、地中から
叫んでいる――この世の公正、平和、権利を求めて悲鳴を上げている。薄汚い墓
地に埋められた彼らの骨は、何千ものはく奪と詐欺の物語を語ってくれる。破ら
れた約束、灰と化した夢、空腹の物語である。現実を見ようじゃないか! 私た
ちに、そのような物語を語ってくれる人々は、少なくとも10億人はいるのだ。彼
らは私たちの近所にいる。あなたは重要なことだと思わないのか? 控えめに見
積もっても、8億人の人々が空腹のまま床についている。それがあなたの子ども
だったら、そんなことが起こるのを許せるのか? そう、毎日、毎日、30,000人
の子どもが5歳になる前に亡くなっている――十分な食べ物、もしくは薬がない
というだけの理由で。3.6秒ごとに1人の人が餓死している。彼らは死に追いや
られているのだ。これが、私たちの子どもや孫に伝えていきたい世界だろうか?

これと同時に世界では、爆弾・銃を作り、戦備を整えるのに年間1兆ドルが費や
されている。これは道理にかなっていない。これは犯罪であり、罪だ。これが、
私たちが生きていたい世界だろうか?

私はインドから来た。津波の被害の渦中からここに来た。その状況は言葉では言
い表せない。私はアジアの各地で見てきた死臭と破壊を今も感じている。世界中
の人々が、できる限りのサポートをして連帯を示してくれた。私たちはそのよう
な連帯を、アフリカ、アジア、南米で亡くなっている何百万人もの人々に対して
示すことができるだろうか? 自然は皮肉な方法で人々を扱う。今回の津波では、
タイの五つ星リゾートで休暇を過ごしていた富裕な国の富裕な人々と、スリラン
カの漁民が、亡くなった。自然は、カーストも、階級も、性別も分け隔てしなかっ
た。私たちはしている、が。

けれども、人間が作り出した(man-made)――というより女性ではなく男性が作
り出した(man-made)――「津波」は、この世の中で毎日毎日起きている。女性
はレイプされ、子どもは殺され、HIV/エイズで毎日6,000人の人々が亡くなるま
まに放置されている。貧困には肌の色、性別、匂いがある。涙と血の匂いだ。彼
らは傷つけられた人々だ――ダリット(注:カースト制度の最下層)、女性、ア
フリカ人…。どうして私たちは黙っていられるだろうか? メディアは忙しすぎ
て、コンゴやルワンダやサハラ以南の国々で起きているそのような「津波」に注
目しない。世界で最強の国々は爆弾を作って、売って、落とす商売と、「自由」
をパラシュートで投下する商売に忙しい――卸売りも小売もだ。貧困が卸しで富
裕な国々からアフリカ、アジア、南米の港に輸出されているとき、私たちは何を
したらいいのか? CNNを観て夕食を食べ、床につけばいいのか?

「グローバルな貧困根絶キャンペーン(G−CAP、The Global Call to
Action Against Poverty)」はモーニングコールだ。私や、皆さんのような人た
ちに対するモーニングコールなのだ。まどろみから目を覚まして、行動しよう。
公正、平和、権利のために、行動しよう。G−CAPはまた、大統領や首相に対
して、彼らが仕事中に寝ているのだということを知らせるためのモーニングコー
ルだ。G−CAPは、世界中で活動している組織間の連合の中でも最大規模のも
のの一つだ。これは、草の根やコミュニティベースの組織から、国際的な労働組
合、何百もの人権・開発団体、グローバルなネットワークまでが集った連合だ。
G−CAPは、イギリスの「貧困を過去のものにしよう(the Make Poverty
History )」キャンペーンや、「世界の子どもに教育を」キャンペーン(Global
Campaign on Education)、貿易公正運動(Trade Justice Movement)などの様
々なキャンペーンを通して、形作られてきた。また、不公正な債務に異議を申し
立てるジュビリーキャンペーンの経験を元に、形作られてきた。これらのキャン
ペーンに関わる100人の人たちが、2004年9月、ヨハネスブルグで会合し、共同
行動のためのグローバルなプラットホームである、G−CAPを形成したのだ。
世界中からの何百もの参加団体と、主要なキャンペーンが、以下の4つの主な課
題について共に活動することに合意した。

1. 貿易の公正。富裕な国々は、貧しい国々の人々から彼らの生活と生計の手
段を奪う、ダンピングと不当な農業補助金を止めなければならない。WTO(世
界貿易機関)の不公正な貿易体制と、アフリカ・南米・アジアの国々に押し付け
られている不公平な貿易ルールを、止めさせなければならない。
2. 債務の帳消し。貧しい国々は、富裕な国々とその取り巻きであるIMF
(国際通貨基金)や世界銀行などに、毎日1億ドル以上を支払っている。これを
止めさせなくてならない。つまり、今すぐ不公正な債務を帳消しにしなくてはな
らない。
3. 援助の質と量を大幅に増大すること。不当な条件を付けずに、である。富
裕な国々が開発のために、GNP(国民総生産)の0.7%を拠出することはすでに
同意済みである。
4. 地球上から貧困を無くすための努力、また、民主的で説明責任を果たせる
方法を通してミレニアム宣言とミレニアム開発目標を達成するための努力を、国
レベル・国際レベルで行う。水、保健、教育などの公共サービスにおける、自由
化と民営化の強要を止める。

ニューデリーからニューヨーク、スリランカからロンドン、ブラジルからベルギー、
モンバサからメルボルンに至るまで、世界中の何百もの村や町において、民衆に
よるアクションが行われる。世界中のどこにいようと、各個人だれでも、たった
一つの行動をすることによってこの運動に参加できる――白いバンドを身につけ
ることによって。白いバンドを身につけることは、あなたが貧困に対する闘いの
ためのグローバルな運動に連帯していることを示すことになる。白いバンドを身
につけることは、あなたが不公正に対して異議を申し立てているということを表
明することになる。白いバンドを身につけることは、あなたが世の中をよくした
いこと、あなたがこのグローバルな運動を支持していることを示すことになる。
白いバンドは、連帯、公正、平和の象徴なのだ。

共に行動すれば、私たちは山を動かすことができる。貧困と収奪の山、債務の山、
私たちの港に積まれたダンピングされた物の山を。自由の邪魔をしている、不公
正と不公平の山を。そしてその自由とは、恐怖からの自由、貧困からの自由だ!

2005年、私たちには、世界に対して自分たちがこれらのことを重要だと思ってい
るのだということを知らせるチャンスがある。心地よいとはいえない疑問を問い
かけるチャンスがある。私たちは、なぜ爆弾を作ったり戦備を整えたりするのに
毎年1兆円を費やしているのに、貧困をなくすのに数十億ドルを費やすことがで
きないのか、問いたい。富裕な国々、大きく太ったのに説明責任を負おうとしな
い多国籍企業、非民主主義的で説明責任を果たさないIMFや世界銀行のような
機関は、変わらなければいけない! ワシントン(米国政府)とブリュッセル
(EU(欧州連合)本部)の政策立案者たちは、貧困をなくすより、貧しい人々
を排除することの方に熱心になっているようだ。このような不正行為は続けさせ
られない。私たちは、破られた約束の、薄汚い墓地に立っている。その約束は、
リオ、ウィーン、北京のサミットでいかにも本当らしく誓われた約束だ。だから、
ミレニアムの幕開けである2000年9月に、189カ国の首脳が会合してミレニアム
宣言を採択し、国連が8つの明確なミレニアム開発目標(MDG)を発表したと
きも、貧しい人々と社会的に無視されてきた人々は、活気づけられはしなかった。
なぜなら、約束を破ることにおいて、各国政府は負かすことのできない実績を持っ
ているからだ。

実のところ、ミレニアム開発目標は、最善の策ではないかもしれない。十分では
ないかもしれない。不公正と不平等を消し去る特効薬ではないかもしれない。け
れども、臭いものとして貧困に蓋がされている今、そして、富裕で強力な国々の
安全保障が情勢を支配していて、国連安全保障理事会の座が多くの国の最大の関
心事となっている今、そんなMDGさえもが、かつてないほどに重要性を帯びて
きているのだ。なぜなら、国際政策の優先事項の中には、貧困と権利に関するも
のがMDGのほかに何もないのだから。ネオコン(新保守主義)とユニラテラリ
ズム(一国主義)の力が強まっている状況の中では、対テロ戦争が中心に据えら
れ、貧困は都合よく棚上げされているのだ! 私たちは、MDGの約束が確実に
守られるようにする必要がある。私たちは、女性の権利が全ての開発方針の骨子
に含められることを保証する必要がある。

2005年、世界の貧困問題に影響を与える3つの重要な出来事がある。それは、イ
ギリスで7月5日に開催されるG8(先進8カ国)サミット、9月に開催される
国連ミレニアム+5サミット、香港で12月13〜18日に開催されるWTO閣僚会議
である。7月、9月、そして12月のWTO閣僚会議の間、世界中の何百万人もの
人々が、白いバンドを身につけて連帯を示し、公正のための運動に参加する。
2005年、世界中の人々が協力することになる。

貧困は、歴史上の偶発的な出来事ではない。貧困は、各国間・各社会間の、また
各国の中・各社会の中における、不平等で不公正な力関係によって、日々作り出
されるものだ。貧困は、世界のより貧しい国々から資源を搾り取り天然資源を収
奪することに忙しい、数少ない富裕で強力なひねくれた国々によって、作り出さ
れるものだ。

私たちは、それでもあえて夢見る。貧困がなく、一人ひとりが自由と尊厳を持っ
て生きることができる世界を。けれども、私たちは世界をその方向に動かすよう
に仕向ける必要がある。なぜなら、政策立案者たちは、永遠に象牙の塔にこもっ
てはいられないからだ。彼らは、街頭に出てこなければいけなくなる。彼らは、
何百万人もの人々の声を聞かなければいけない。仲間たちよ、目を覚まそう! 
世界をよくする運動に、参加しよう。

マーティン・ルーサー・キングが言ったように、一つの場所における不公正は、
全ての場所における公正にとっての脅威となる。世界中にとっての最大の恐怖は、
空腹がもたらす過酷さである。8億人が空腹の過酷さを味わっているときに、少
数の人々の安全保障を考えることなどできるだろうか?

自由は、少数の人々の特権ではない。平等は、テレビのチャンネルと空約束から
もたらされるものではない。爆弾は、イラクであれどこであれ、自由と民主主義
をもたらすことはできない。そして私たちは、地球上の最後の1人が自分を自由
と感じられるときまで、声を上げ続けるだろう。自由とは、恐怖からの自由、貧
困からの自由だ。私たちは、この不公正が続くことを許さない。もし、私たちが
断念してしまったら、私たちは毎日起きている何千人をも巻き込む大虐殺の中で、
沈黙という犯罪文化に加担することになる。私たちは説明責任を求め、公正を求
め、これらの権利を主張する。この新たに生まれた運動を代表して、私は皆さん
一人ひとり、そして全ての団体に対して、今、貧困を終わらせるための運動に参
加するよう呼びかける。私たちで変化を起こしましょう。

(G−CAPは、1月27日、ポルトアレグレの世界社会フォーラムにおいて開始
された。この文章は、G−CAPの創立メンバーであり、アクション・エイド・
インターナショナルの国際代表であり、このウェブサイト「インフォチェンジ・
ニュース・アンド・フィーチャー(InfoChange News & Features)」の編集者で
ある、ジョン・サミュエルが行った演説の記録である。この開始の際には、ブラ
ジル大統領のルイス・イナシオ・ルーラ・ダシルバと、10名以上のブラジルの閣
僚が出席した。 )

出典:from John Sammuel for Global Call to Action Against Poverty

翻訳:オルタモンド翻訳チーム

投稿者 sustena : 01:32 | コメント (0) | トラックバック

 
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